「数学カフェ」講演備忘録

第23回「数学カフェ」でお話ししたので、その記録をしておこうと思います。

参加してくださったのは91人(くらい)で、バックグラウンドはいろいろでしたが基本的にはほぼ「一般の」皆さん。非常に熱心な会で、講演中に随時質問を受けましたが、たぶん30〜40個は出ていたのではないか? 時折立ちつくしながら答えました。正味4時間強、楽しく過ごさせていただきました。

内容は、微分幾何学、特にRiemann幾何学における「曲率」の概念の紹介です。入門段階ではあまり見かけないような、しかし感覚を養うのに役立つような紹介の仕方を狙いました。

普通に考えればこれは、大学の数学科4年生以上(?)が対象となるようなレベルの内容です。ですが「数学カフェ」の皆さんの熱心さを頼りに、口当たりのよい説明にとどまらない、本気の話をしようと思って頑張りました。果たしてこれは「カフェ」か? まあ、強めのお酒が出るカフェもありますから。

もう少し突っ込んだことを言うと、タイトルにあるように今回「比較定理」というものを取りあげた背景として、講演でも話したのですが、自分の中には「Riemann幾何学がこんなにも特別に華やかである理由を考えてみたい」という意識がありました。

僕はもともとRiemann幾何学から専門的な数学に入門したわけではなくて、自分にとっての入り口は、共形幾何学やCR幾何学といった、同じ微分幾何学の中でも比較的マイナーな諸分野でした(というか、そもそもの入り口は複素関数論だったんですが、それは置いておく)。そういったマイナーなものに取り組んだことで、質問できる相手が非常に限られるといった難しさはありつつも、一方で、それによって獲得できた視野の広さというものがあるように思っています。個々の分野に、それぞれの立場に応じた「曲率」があること。それらを統一的に理解するための高い視点が存在すること。

翻って、そういうことを知ると、「ではRiemann幾何学ばかりなぜ発展しているのか」ということも改めて不思議に思われてくるところがありました。明らかな一つの理由としては一般相対性理論の成功に伴う研究者人口の増大があったんでしょうけれど、そういうことではない答えが欲しい。今回の話には、この問いに対する解答の試みという意味を込めています。

つまり、「Riemann幾何学には比較定理がある」のが重大なのだろうというわけです。たとえば共形幾何学にも何らかの意味で比較定理が存在するなんてことにはならないのか? まあ、望みは薄そうだけど、完全に諦める理由もないんじゃないかと思うのですが

全体を4部に分けました。各々の内容をまとめておくと以下のとおりで(個人的なメモ書きに近い感じですが)、第2部と第3部が主要な部分です。

なお技術的な点として、今回の講演では、「接続」の概念を(ほぼ)回避するという工夫をしました。主な理由は、限られた時間でそれを導入しても、足枷にしかならないと思ったからです。でも本格的に微分幾何学をやるなら接続は不可欠な道具なので、やってやろうと思う人は、毛嫌いせずに勉強してしまってくださいね。

最後にスライドの書体について主催者さんに聞かれたので書いておきます。まず、そもそもですが、スライドはLaTeX(正確にはupLaTeX)+Beamerで作りました。「今さら人に聞けない「日本語でBeamer」のキホン」がとても参考になります(もちろん『LaTeX2ε美文書作成入門』にも目を通す!)。それで書体は、和文が源ノ角ゴシック(pxchfonパッケージを利用)、欧文がOptimaによく似たBiolinum(libertineパッケージを利用、\usepackage[scale=1.1]{libertine}などとすると大きさのバランスが取れる)でした。Beamerで利用したときの(ということなのだろうか?)pxchfonの振る舞いに謎なところがあったのでそのうち解決したい。