いまどきの国立大学教員の給与

初出時と比較して、2点改訂を加えてあります。1点目は「(基本)年俸」の語の用法の修正です。2点目は賞与の支給基準に関することで、どこまでが給与規程に書いてあり、どこからが「イメージ」として説明されたことなのか再確認したところ、給与規程には「その期ごとに決定する」とあるだけで具体的なことはすべて「イメージ」でしたので、それを反映しました。実質的な内容には変更ありません。

大阪大学に助教として2016年4月に着任しました。大学院博士課程を修了したのが2013年3月、27歳で、それから3年間ポスドクの期間を経て、30歳で一般的にわかりやすい意味での「職」に就いたことになります。研究者のキャリアパスについては、おそらく世の中では全然と言っていいほど知られていないし、雰囲気がいくらかでも伝わるような文章を書いてみたいとも思うんですが、今回はそれはやらない。上に書いたようなくらいの感じは、少なくとも数学でアカデミアの研究職に就く人としては、大雑把に言えば普通というか、とても早いわけでもなく、またとても遅いわけでもないとだけ述べておきます。

それで、お金の話です。アカデミアの求人では給与額の目安が事前に提示されることは稀で(そこまで一般的に言っていいのかやや不安ですが、でもたぶんそう。採用内定した後ですら勤務初日まで知らされない場合があるくらいです)、これは悪弊だと思うんですが、「だいたい想像つくでしょう」みたいな雰囲気で済まされることが多いです。でも実際のところ、大学院の博士課程学生にすら、非常に曖昧な想像しかできないです。

そんな中で、自然言語処理の研究をしておられる小町守さんの公開されていた情報は、ありがたいものでした。これは奈良先端科学技術大学院大学(NAIST=ナイストと呼ぶのがたぶん普通でしょう1)における2010年着任の助教の話です。同じ国立大学であれば、事情はそう変わらなかったものと思われます。

なお、小町さんはその後首都大学東京に准教授として移られたとのことで、そこでの状況についても記事を公開されています。

しかし情報源が一つしか見あたらないというのも、知りたい側にとってはなんだかなあといった感じです。それに、ある程度の時間が経過して、国公立大学を取り巻く状況も変化しています。具体的には、新任教員には「年俸制」による給与体系が適用されるケースが多くなりつつあるようです。というわけで、自分の状況も公開してみようかと考えたのです。

前置きが長くなりました。

給与体系

近年の新任教員に対して広く導入されつつある「年俸制」が、自分にも適用されています。大阪大学においては、まず「基本年俸」というのが定められ、その12分の1が毎月の給与として支払われます。それとは別に6月・12月に賞与が支給されます。賞与の額は、「イメージ」として説明を受けた内容によれば、それぞれ基本年俸の12分の2を基準として、勤務成績の評価によって決定されることになっています2。裁量労働制であり、残業代の発生はありません(これは従来の給与制度でもそう)。

さらに、次の点が重要です。

なお、有給休暇は年間20日です。ただし、裁量労働制のもとで有給休暇というのがどういう意味を持つのかは、今ひとつよくわからないところではある。一応、通常は勤務する日だけれど大学に行かない日は有給休暇の申請をするようにしています。あたりまえだろうと感じるかもしれませんが、「いつ仕事をしてもいいし、どこで仕事をしてもいいし、すごく仕事が早くて担当する業務が片付いてしまえば好きなことをしてていい、とにかく終われば文句ないですよ」というのが裁量労働制であるとすれば、そんな申請は不要という気もする。

金額

以下に示すのが自分の場合の初年度の給与額です。ただし、賞与については、勤務成績の評価が「標準的な成績区分」だった場合の額を書きます。実際には「標準的な成績区分」という評価ではなかったので、受け取った額はちょっと違いました。

もし6月賞与が100%の支給であれば、給与総額は約679万円ということになりますね。なおしつこいようですが、退職金はないという制度のもとでの金額です。

勤務成績の評価に伴う賞与の変動はだいたい以下のようになるそうです。「C」というのが「標準的な成績区分」です。

区分 S A+1 A B C D D-1 E E-1
基準からの変化 +40% +20% +13% +6% ±0% -5% -8% -12% -18%以上

感想

主観的なことをたくさん書くつもりはないのですが、でも少しだけ感想を。

単純に見て、少ない金額ではないと思います。他と比較せずに見れば、決して。それに、国(公)立大学というのは非常に公的な存在ですから、国の財政が破綻気味な現状において、基本的には人件費を抑制することを率先して考えるべき立場にあるだろうと思います。

一方で、これから大学教員などのアカデミアの研究者になることを一つの可能性として念頭に置いている人がいるとき、待遇面から見て国立大学教員が魅力的な存在であり得るか。微妙なところかもしれません。まあ悪くはないけれど、「悪くはない」と言えるためのぎりぎりの線にあるような気がします。想像してください。大学院に進学した後、大学の同級生たちがよいお給料をもらいながら働いており3、一方で自分はこれから5年以上頑張ってようやく研究職に就けるかもしれないし就けないかもしれない、というのは、もちろん好きな学問に取り組むことのできる幸せはあるのですが、それでも独特な体験です。(なお、「大学院に進学」=「研究者を目指す」では全然ありませんし、全然ないことが望ましいと思います。念のため。)

個人的なことを言えば、数学者というのはこの世に存在する最高の職業だから4、給与なんてたいした問題ではないんですけど。


  1. 類似の存在としてJAIST、OISTがある。ちなみに韓国にはKAISTがあったりする。 [return]
  2. 給与規程では、「その期ごとに決定する」とされています。 [return]
  3. 大学教員を目指すことのできる程度の人というのは、あからさまな、かつひどく大雑把な言い方をしてしまえば、たとえば東大・京大で上位にいる学生であり、その他の大学だったら「突出している」と言えるレベルに近い学生ということになるだろうと思います。 [return]
  4. 意見には個人差があります [return]