『デザインの輪郭』

ふとしたきっかけで、10年ほど前にINFOBARという携帯電話があったことを思い出した。デザインしたのは深澤直人さん。その当時は知らなかったけど、超有名なデザイナーなわけです。INFOBARのほかには、たとえば、無印良品における仕事も広く知られています。その深澤さんが訥々と語る本。


この本のタイトルは、「輪郭のデザイン」とするほうが、一見すると意味が通るようにも感じられるかもしれない。けれども、それは正しくない。

よい造形は、その外部との関係によって規定される。一方的な意図によってではなく、ものが置かれる空間のもっている“圧”を見抜き、それに従うことでかたちを決定し、つくりあげることがデザイナーの仕事である。……と深澤さんはこの本を通じて言っている。そのように僕は読み取った。空間の中でものの占めるべき領分を最適なかたちで求めること、その輪郭を描き出すこと。これを「デザインそのものについて」実行した本だから、「デザインの輪郭」で良いのだ。そういうメタな視点を含むタイトルなのである。

もちろん、この本の全体を、上に書いたようなことだけで説明できているわけではない。そもそもこの本での記述は、系統だっていない。だから、読者によって読み取り方はかなりの程度で分散するだろう。でもそれは、デザインに対するいくつかの観点を、できるだけ精密に描き出すための試みとしてそうなっているように感じられる。もっと多くの人に伝わるわかりやすい記述もあるかもしれないが、このスタイルは、もしかしたら著者の意図した以上のものを伝えるかもしれない。そういうポテンシャルがある。僕は「たいへんなことを伝えてもらった」と感じる。そう(半ば勝手に)感じてしまった読者のうち何パーセントかが、きっと次世代のデザイナーになるのだろう。


ゆるやかに連関する40の項目が並ぶ。

01 デザインの輪郭/02 選択圧/03 張り/04 考えない(without thought)/05 行為に溶けるデザイン/06 俳句/07 ふつう/08 そのものの周り(外側を見る)/09 手沢/10 最小限で生きる/11 「ほら、ね」感覚(同じ感動をさせてあげたい)/12 アノニマス/13 使っていなかった触角/14 あたりまえの価値/15 灰汁/16 意図を消す/17 感動の因子/18 ゆで卵/19 デザインは好きで、デザイン活動はきらい/20 デザインメディア/21 デザインを教える/22 幸せの現象/23 短命なデザイン/24 デザインを頼む人/25 アイデアの固まるとき/26 アイデアとエクスキューション(出来映え)/27 ただひとつの答え/28 誰のアイデア/29 適正解/30 デザイン体質/31 情報と経験/32 うちのスタッフと/33 オフィスの掃除/34 イタリアの仕事/35 子供の頃(表現と再現)/36 造形時代/37 週末小屋/38 単純に生きる/39 もてなすということ/40 自分を決めない

深澤直人『デザインの輪郭』

各項目は、大きめの文字で印字された詩のような文章で説明され、さらに、多くの項目については、もっと長い文章による解説が続く。

基本的なアイデアは「03 張り」、「04 考えない(without thought)」、「07 ふつう」に述べられていて、ここだけでも十分に味わい深い。

03 張り

張りは、輪郭の力のことです。

深澤直人『デザインの輪郭』

今回読み返してみたら、「13 使っていなかった触角」とか「21 デザインを教える」、「22 幸せの現象」に書かれているようなことが、腑に落ちる感じがした。